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四つ葉の葵

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詩と心のお部屋です

大切な一瞬を握り締める
決して手放さないようにと、無情なる時間を握り締める
無邪気な微笑み、鼻をくすぐる匂い、恥じらいの色
あの時感じた確かな一秒が、無情に流されていく


電車から見る茜空
待ち合わせ場所に向かう一本道
二歩思い出して三歩忘れるように、刻(とき)が移ろい
愛しさに灼(や)かれ、妬(や)かれ、枯れてゆく


それでもこの心臓は
あの時と同じように、同じ鼓動を続け
時折、時を折るように握り潰して止めたくなる
停まってしまえば、これ以上失うことはないのだから


今宵も枕元で呟く君の名前は
忘れないでと、頬に、腕に、指に
瞼(まぶた)から涙を引きずり出しては
とめどない雫となって、止められず、止(とど)まらずに流れてゆく


時のように
けれど、自分の意思で
# by aoi_samurai | 2011-06-11 00:08 | Poem
いつもの自分を脱ぎ捨て 裸になって
淫らに愛を貪れるなら それはきっと素敵な事
求めたくなる欲求と 求められる幸せ
甘えるようにねだり 溶けるように眠りについて
いっそこのまま時間が止まってしまえばと
心の何処かに居る本当の自分が 音も無く涙を零す

欲しいのは身体ではなく
露わにしてくれるその気持ち
貴方がいないと駄目なの・・・
君がいないと駄目なんだ・・・
逢えない時間が想いを募らせ
破裂する時 二人はひとつになる

絡ませる指の小さなぬくもり
見つめ合う瞳に灯る輝き
溜息のように熱い吐息を漏らし
激流のように過ぎ去るひと時を惜しんでは
磁石のように離れようとしない

何よりも辛いのは
逢えない時間を耐え忍ぶことではなく
別れの際に あなたに後ろ姿を見せること
見送りの視線を背中で浴び
振り返らずに踏み出すその一歩一歩が
私の胸を何よりもきつく締め上げる


それが好きだということ

逢いたい気持ちより 離れたくないその気持ちこそ

あなたが好きだという気持ち
# by aoi_samurai | 2011-06-11 00:07 | Poem
「久しぶりにビリヤードをやったけど、楽しかったよ」
「俺もだ。あの時、もしラシャを傷つけたらどうしようかと思ったけどね」
夕食は隆史が紹介した店で食べることになった。
駅の長い地下街を5分ほどくねくねと歩いた先にあったのは、一軒の焼肉屋だった。
いかにも創業云十年と言いたそうな店構えをしているが、地下街にあるので実際はあまり古くない店なのかもしれない。看板には『焼肉レストランうしみつ時』と書かれており、どう見ても闘牛のようなイラストが描かれている。
メニューを紹介する立て看板には『牛カルビ480円』『豚トロ280円』と、非常にリーズナブルな値段が書かれていた。
店内に入るや否や、焼肉のタレの甘い匂いが鼻をくすぐり、それだけでお腹が鳴りそうなほどに食欲をかきたてられた。
僕と隆史はたまたま空いていた2名様用テーブルに案内され、まずは乾杯にと生中を2つ注文した。
「お疲れ様」
「誘ってくれてありがとな。乾杯!」
グラスの重い音が弾け、間もなく喉の奥に冷たい炭酸が流される。
たいした運動にもならなかったが、よく冷えたビールは格別の味だった。
その後すぐに隆史はウェイトレスを呼び、立て続けに注文をした。それもメニューを見ずに。
オイキムチ、ユッケ、大根とおろしポン酢のサラダから始まり、続いてカルビとロースを2人前ずつ、牛タンとミノを1人前、それとレバーを1人前、あとはライスを2つ注文した。
「あれ、隆史ってキュウリとか大根とか食べられたっけ?」
偏食家なのは大学時代から知っていたが、何故か彼はフッと鼻で笑い
「焼肉屋で食べるものに限っては別だな。肉ばかりだとすぐ腹いっぱいになるんだ、これが」
「調子の良い偏食だなぁ」
「そう言うなって」
先につまみのオイキムチがテーブルに置かれ、続いてサラダと牛タンが置かれた。
「ところで、さっき『大きなヤマ』があるとか言ってただろ? それって何なんだ?」
「あぁ、実は今度駅前のデパートで宝飾市が開催されるんだよ。うちの会社もその宝飾市に協賛することになってね」
「へぇ、宝石関係にまで手を伸ばすようになったのか。資金を持ってる会社は違うね」
「いやいや。先日のプレゼンが上司の目に止まったみたいで、僕の野心に出資してくれたといったところかな」
「お前の口から野心という言葉が出るとは、人間長い目で見ないと分からんものだ」
「こればかりはちょっと特別でね」
「特別?」
「叔父が彫金師で、そこに出店するんだ。小さい頃から随分お世話になったし、恩返しがしたくて」
隆史はグラスに残ったビールをグイッと飲み干し、
「やっぱり弘喜だな。そういう律儀なところが昔からそのままで安心したよ」
「ははっ、経理の子には冷たい目で見られてるけどね」
やがてお代わりのビールと、メインディッシュとなる肉が次々と並べられた。隆史は「今夜は俺が奉行として、美味い肉を焼かせてもらうよ」と、まずは牛タンから網の上に乗せた。
いかにも安値でペラペラとした薄べったい牛タンの1枚1枚を、実に手際よく、そして鮮やかに裏返していく。
「おっ、意外にも美味しい・・・」
レモン汁の小皿に乗せられた牛タンを食べて、僕は驚いた。少し歯ごたえが強いが、噛むほどに特有の甘みが滲み出る。
「だろう? 値段とクオリティ共に充分だ。問題といえば店名のネーミングセンスくらいか」
「確かに」
隆史はサラダを少し食べた程度で、あとはひたすら肉を口に運んでいる。やっぱり偏食家は偏食家なのだろう。いい意味で『相変わらず』だ。
僕らは互いに色々な事を話した。大学時代のナンパの失敗談や、雀荘で大負けした事や、成人式の二次会で『お持ち帰り』をしたら相手がまさかのマグロだったといった、まるで青春時代の階段を一段ずつ上から下へと降りてゆくような内容だった。
プレゼンから宝飾市の事までいささかスケジュールを詰め込みすぎていた僕にとって、それは何事にも代え難い癒しで、時の流れる速度も忘れて笑い合い、語り合った。
気付けば携帯電話の時刻は夜10時を示し、「そろそろ帰るか」と、僕たちは店を出た。


「こんなに楽しかったのは久しぶりだよ。ありがとう、隆史」
「こっちこそ気兼ねなく話せる関係でいられて感謝だ。仕事は大変だろうけど、無理するなよ」
「ああ」僕は頷いた。「それじゃ、またな」隆史は僕に背を向けながら右手を挙げ、小刻みに左右へと振り、駅の改札口へと小さく消えていった。

「今日も良い月だな」
僕は空を見上げ、淵崎と呑みに行ったあの晩の事を思い浮かべた。
こういう夜は、やはり徒歩で帰るに限る。
「それにしても、少し食べ過ぎたかな」
ベルトの穴をひとつ緩め、呑気に鼻歌を歌いながら僕は帰宅していった。
# by aoi_samurai | 2011-05-09 05:28 | 小説・物語


「え?」
僕は思わず声をあげた。
3-5でリードを許したまま続いた9ゲーム目、的球の6番ボールが目の前の9番ボールの奥にある状態で、隆史は左足を台と垂直になるように折り曲げ、手球の真上からキューを構えた。
「隆史、ここでは・・・」
「さっき店員から許可貰ったから大丈夫だって。ラシャに当てたら弁償するって言ったしな」
マッセだ。
本来はラシャと平行にキューを構えて打つのだが、マッセはラシャと垂直に構えて打つ方法だ。
「弘喜、これがキャロムだよ」
隆史の表情が険しくなった。
えぐり出すように捻りを加えた手球は、正面の9番ボールを迂回するように反時計周りにラシャを走り、高い音と共に6番ボールへ当たった。ボールは手球の回転力を一部だけ引き受けたようにクルクルと横回転しながら、斜め奥にあるポケットへと吸い込まれていく。
「あれが入るのか!」
心臓が一際大きな鼓動をさせた。と、その直後。
「え? あ、ああっ・・・!」
信じられない光景が映った。
狙いは6番ボールではなかった。ポケットに入る6番ボールだけを見ていたのも束の間、ふと視線を変えた瞬間に9番ボールが動いているのが見えた。
手球に当たったのだ。
6番ボールに当たった手球が一度クッションにあたり、その反射先にある9番ボールに命中したのだ。
9番ボールまでもが異様な回転を帯びながら、ズルズルと中央のポケット目掛けてラシャの上を舐め、そのまま中央のポケットに入った。
「おお、すげぇ!見たかよ今の!」
マッセを放つ隆史を見ていた一組のカップルの彼氏が、歓喜の声を荒げた。
隣にいる彼女はきょとんとした顔で、興奮する彼氏を呆然と見ている。
「あんなすげぇマッセ初めて見たぜ!これはいい思い出になるな」
彼氏はケラケラと笑い、隆史に向かって拍手をした。
恥ずかしそうに隆史は一礼をし、それから僕に向かって「組んでくれ」と言った。
「いやいや、僕はもう降参だ。あんなのを見たら勝負する気になれないよ」
僕は財布から千円札1枚と500円玉を1枚取り出し、隆史に手渡した。


「仕事はどうなんだ?」
会計を済ませ、さて夕食でも食べに行こうとした時に、不意に隆史が話を切り出した。
「営業のことか?」
「お前のことだ、接客業と言っても差し支えなさそうだけどな」
思わず苦笑。
「これから間もなく大きな【ヤマ】があるんだ。それを成功させるのが目標かな」
「ヤマ? 大手と交渉でもしてるのか?」
「いや、規模でいえば零細だけどね。平たく言えば【名の知れた零細】とでもいうか・・・」
「つまり、スタート地点を目指している段階ってことか」
「スタート地点でサイコロを振ったところだね」
僕は点滅する横断歩道の信号を眺めていた。闇は徐々にその帳(とばり)を広げ、ゆっくりと世界が濃い青へと染まっていく。
「上手くいきそうなのか?」
「相手は叔父だからね。その時点の交渉は終わっているんだけど、その先が問題だね」
「運否天賦といったところか。そういう賭けは悪くないな」
僕と隆史は笑った。要するに『あとは神頼み』ということだ。
# by aoi_samurai | 2011-05-07 02:48 | 小説・物語
今日は午前中から忙しさに溢れていた。
最初は叔父の家に訪れ、宝飾市の出店場所から出品する貴金属や宝石の総数、それから同業者である友人の人数や連絡先まで、揃えられるデータというデータを集める作業から始まった。
他にも輸送経路や手段、出店に向けて集められる人数など、思った以上に話す内容が多く、一段落した時には時刻は既に午後1時を回っていた。
「出店という言葉だけでは簡単そうに思えましたが、実際は前準備だけでもこんなに大変なんですね」
「なぁに、慣れればどうということはないよ」
出前で頼んだ寿司をつまみながら、結構大変な事を申し出たもんだと、若干後悔してしまった。
やっぱりな、と言わんばかりに叔父が笑う。
「有言実行というものがいかに尊いか分かっただろう?」
「そうですね。でも、もう賽は投げられてますから。頑張ります」
出前の割には美味しいサーモンの握りを堪能しながら、意気込みをアピールした。
「そういえば、弘喜」
「はい」
「お前、コレとか出来たのか?」
そう言い、叔父や右手の小指だけを突き立てた。
「またからかうんですか。もうずっとフリーなので、すっかり慣れちゃいましたよ」
「そろそろ嫁さんが欲しいとか思わんのか?」
「そうですね、風邪引いた時に看病してくれる人がいると助かりますね」
愛想笑いでごまかす。
「やはり同じ血を引いているだけあって、私もお前も変わり者だな」


午後は前々から約束していた、大学時代の友人と一緒にビリヤードを打ちに行くことになった。
駅から徒歩7分ほどの所に総合アミューズメント施設があり、そこではゲームセンターからボーリング、そしてビリヤードや卓球まで出来ると聞き、僕は駅前の改札口で待ち合わせをした。
午後3時5分。白と青のチェック柄のシャツとジーパンといった軽装で彼は来た。
「いやあ、遅刻してすまない」
「僕も今さっき来たところだよ。それにしても変わらないな、隆史は」
「そういうお前もだよ。2年も経てば変わると思ったけど、やっぱり2年程度じゃ駄目か」
「それじゃ僕が駄目な人間みたいな言われ方をされてるみたいじゃないか」
隆史は大袈裟に笑った。
「悪い、悪い。そういうつもりじゃないんだけどな」
隆史・・・真辺隆史は大学時代の同じ学部で知り合った友人で、政治経済学部というお堅い学部のせいか、よく一緒に社会情勢や景気についてディベートを重ねた事もあった。4年前に結婚したらしいが、その時僕は地方へと単身赴任をしていたので、結婚式に参加することは出来なかった。
「そういえば結婚してもう4年経つみたいだけど、順調なの?」
「そうだな、良くしてくれてると思う。俺みたいな偏食家の為に朝食も毎日和食を用意してくれてるし、まぁ自分で言うのもアレだけどさ、良く出来た嫁さんだよ」
「結婚か。僕も少し考えているんだけどね」
「相手は?」
「まだ」
僕達はアミューズメント施設に向かいながら話を続けた。
「相手もいないのに結婚を考えるとは、お前らしくないな」
「それ以上に隆史が結婚出来た時点で、隆史らしくないと思ったけどね」
「余計な一言も相変わらずだな」
「お互いにさ」

ビリヤード場は若者のカップルしか居ない、実に恨めしい場所となっていた。
8テーブルあるうちの4テーブルがカップルで埋められていたので、一番右奥にある静かなテーブルを選択することにした。
隆史がシートに名前を書いている間に、僕はキューを2本を選び、それをビリヤードテーブルの上に置いた。それから店の入口に備え付けてある自動販売機で缶コーヒーを2本買い、ボールとラックを持って来た隆史に1本手渡した。
「ナインボールでいいか?」
「勿論。1セットにつき500円でどう? ただしプレイ料金は割り勘で」
「いいね。それでいこう」
まずはバンキングで先行後攻を決める。バンキングとは手球と呼ばれる白い球を撞き、一度奥のクッションで跳ね返った後に、より手前のクッションとの距離が近い方が先行後攻を決められるというルールだ。
隆史はこまめにキューをチョークへと擦りつけ、「最初の一打が一番大事だからね」と、その闘志を明らかにした。
「それじゃ、いくよ」
同時にバンキングを開始する。互いの手玉がほぼ同じ速度でクッションに当たり、手前に戻っていく。だが、手前に戻ろうとする手球の速度は明らかに違いがあった。球の重心のやや下側を的確に撞いた隆史の方が勢いを止めず、手前のクッションから5ミリほどの位置でピタッと止まった。僕の方の手球は戻る途中で球速がみるみる衰え、半分ほど過ぎたところで一気に失速して止まってしまった。
「んじゃ、先行で」
「先行きが不安になるなぁ」
1から9までの数字が書かれた球をラックに組み、僕はテーブルの中央に並べた。
相変わらずチョークを入念に付ける隆史は「見てろ」と自信ありげに言い、
「ブレイク!」
全力のブレイクショットが1番ボール目掛けて、烈火の如く駆ける。
しまった、と僕は後悔した。ラックの組み方を緩めにしていたせいで、全てのボールが思った以上にラシャの上を走って行く。
中央に位置している9番ボールが5番ボール、8番ボールへと角度を変えながら衝突し、そのままポケットへとインしてしまった。
「まずは500円っと」
あっけなく1セットを取られてしまった。
久しぶりに見る隆史の目は、昔とは変わらない勝負師の目になっていた。
「うかうかしてられないな。僕も頑張らないと」
「勝負は全力でやるもんだからな、遊びといっても俺は真剣だぜ」
僕は缶コーヒーを一気飲みし、軽く両頬を叩いてから再びラックを組み始めた。
# by aoi_samurai | 2011-03-09 03:45 | 小説・物語

by aoi_samurai